大判例

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東京高等裁判所 昭和48年(行コ)7号 判決

控訴人

桑原玉市

外五名

右訴訟代理人

平野光夫

被控訴人文部大臣

永井道雄

右指定代理人

布村重成

外二名

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は、控訴人らの負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人が昭和四五年六月二七日訴外笹川良一、同伊藤五郎、同杉本勝次、同山中唯二および同真鍋秀海を訴外学校法人福岡電波学園の仮理事に選任した処分を取り消す。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、主文第一項と同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠関係は、次に付加するほかは、原判決の事実欄に記載のとおりであるから、これを引用する。

控訴代理人は、

一、本件訴外学園の破産は特殊異常なものである。昭和四一年未の職員への給与の支給遅滞に便乗して、訴外学園の加来熊一理事は、桑原玉市学長追放の陰謀を企て、昭和四二年三月九日手形を不渡にして、訴外学園をして銀行取引停止処分を受けさせ、訴外学園の債権者である三井建設株式会社の顧問弁護士谷本一郎らと通謀して債権者集会を開き、かつ、債権者代行委員会と称する会合をもち、昭和四二年五月一七日福岡地方裁判所に対し、控訴人玉市をはじめとする理事の職務執行停止の仮処分申請をし、昭和四二年七月二一日付仮処分決定により植田夏樹弁護士が代行理事長となつた。そして、さらに、加来熊一理事は有限会社和興と通謀して同会社に破産申請をさせ、ついに訴外学園に対し破産宣告をさせるに至らしめたが、訴外学園は当時四十数億円の資産を有していたのであるから、支払不能ないし債務超過の状態にはなかつた。以上の次第で、本件破産宣告は学園乗取りを計画した加来理事らの陰謀によるもので、訴外学園が真実破産状態にあつたものでないから、理事は信頼関係を失ういわれはなく、本件学校法人の破産宣告により当時の理事であつた控訴人玉市らは当然にその地位を失うものでない。

二、右破産宣告当時における理事(原判決一四枚目裏(2)参照)は、訴外学園再建のために新任された理事であり、債権者の意向を代弁するものである。そして、右理事らによつて構成される理事会により控訴人玉市は学長理事長として信頼が確認されたものである。

三、本件仮理事の選任処分当時、控訴人玉市を理事長とする理事会は存在していた。

四、本件において、破産管財人江口繁が独自の意思に基づき、なんらの手続をもとらず、一片の通告書をもつて桑原玉市学長を解任しようとしたことは、教育公務員特例法の精神および大学の自治、学問の自由の法理に反し、違法である。

五、私立学校の役員(理事ないし学長)の欠格事由は私立学校法三八条の準用する学校教育法九条によるものであり、これよりも民法施行法二七条が優先するものではない。仮に控訴人玉市が仮理事選任処分当時破産者であることにより学校法人の理事たる資格を喪失していたとしても、他の理事は全員適法に理事たる地位にあつたから、理事の欠けたときにはあたらない。

六、訴外学園は、その名称を昭和四八年九月二〇日学校法人福岡工業大学と変更し、同年一〇月四日その旨の登記を了した。

と陳述し、

被控訴代理人は、

一、本件仮理事選任処分の日の以前である昭和四四年二月二七日付そのころ到着の解任の意思表示により控訴人玉市の学長の地位は消滅していたものであるが、仮になんらかの理由によつてなお学長としての地位を有していたと認められるとしても、控訴人玉市は昭和四四年五月六日福岡地方裁判所において破産宣告を受けたのであるから、法律上法人の理事たりうる資格を欠いていたものである。学長が当然理事になるとの訴外学園の寄附行為九条一号の規定は、民法施行法二七条により、学長が破産者である場合には当然に効力を有しないものというべきである。

二、控訴代理人の主張によれば、いわゆる桑原理事会の理事全員は昭和四四年五月二九日全員辞任し、同日新たに寄附行為に基づき本件仮理事選任処分当時のいわゆる桑原理事会の理事全員が選任されたというが、控訴人玉市が破産宣告を受けたのは右新たな桑原理事会の発足する前の昭和四四年五月六日である。そして、当時の訴外学園の寄附行為九条一項は、理事選任方法につき「1 福岡工業大学々長 2 この法人の設立当初から功績のあつた者のうちから前号の理事により指名された者二人以上三人以内 3 評議員の内から前一号、前二号の理事の全員により推薦された者二人 4 前三号までに規定する理事の過半数以上をもつて選任された者二人」と規定し、一号の理事から順次選任されることとなつている。ところで、控訴人玉市は、前記のとおり、その破産により法人の理事たりうる資格を喪失していたのであるから、右2ないし3の規定によつて選任されたその余の理事全員についても、その選任の基礎たる1の理事が理事たりうる資格を欠いていたのであるから、その選任は無効である。

と陳述した。

〈証拠省略〉

理由

一当裁判所は、控訴人らの本訴請求をいずれも理由がないと判断するが、その理由の詳細は、次に付加するほかは、原判決の理由欄に記載のとおりであるから、これを引用する。

二学校法人と理事との関係は委任ないし委任類似の関係であり、学校法人が破産の宣告を受けた場合には、特段の事情のないかぎり、右の委任ないし委任類似の関係は、民法六五三条により終了し、理事がその地位を失うに至るものであり、本件において右特段の事情の認められないこと、訴外学園の場合においては、後任理事の選任は前理事の善処義務に含まれないものであること、昭和四三年七月二日訴外学園の破産宣告により、当時の理事はその地位を失い、この破産宣告により訴外学園の学長たる理事も理事たる地位を失い、他の理事の選任権をも失うに至ること、その結果訴外学園の寄附行為九条一項によつて選任された学長以外の他の理事(控訴人玉市以外の控訴人らおよび訴外原タマヨ)は、いずれも理事たる地位を取得しなかつたものであり、本件仮理事選任処分当時、訴外学園には理事が欠け、その選任の遅滞のため損害を生ずるおそれのあつた状態であつたものであることは、原判決の認定判断するとおりである。当審で新たに提出された甲第三六号証以下および当審の証人唐津徳碩、若島均、百田政次、中西重雄、樋口和之、田中治人の各証言も右認定を左右するものではない。

〈証拠〉中の本件破産宣告当時本件学園が債務の支払不能の状態になかつた旨の部分は、原審における証人植田夏樹の証言に照し信用しない。その他控訴人ら提出援用の金証拠によつても、本件破産宣告当時本件学園が債務の支払不能の状態になかつたことを認めるに足りないから、右事実を前提とする控訴人らの主張は採用しない。

ただし、原判決二二枚目裏一行目の「ある。」の次に「更に詳論すれば、学校法人の理事は、学校法人から委任を受けて学校経営の一切の業務執行の任にあたり、学校法人の人的物的設備管理につき、寄附行為に別段の定めのない限り、原則として自由にこれを掌理処分する権限を有する。そして、学校法人においては、専ら営利を目的とする会社等と違い、公共性が強いことはいうまでもないが、学校法人といえども、本来の事業経営の資金を獲得するために収益事業を営むことも認められているのであり(私立学校法二六条参照)、このことから、学校法人の本来の事業目的を達するためにはその経済的基礎が重要であることが分るのであり、経済的基礎なくして学校法人は所期の目的を達することが、できないのである。これを要するに、学校法人の理事としての職務内容は、人的な面と物的な面との二つがあるが、この二つは一体的な切り離せない関係にあり、その一方に対する理事としての事務処理についての信頼関係が破壊される以上、当然に他方における理事としての事務処理についての信頼関係も破壊され、理事としての権利義務を追行する適格性が失われるものといわなければならない。従つて、学校法人が破産宣告をうけたときは、理事は当然に理事たるの地位を失うものといわなければならない。民法七四条の規定はこのことを裏づけているものといえる。」を加える。

三訴外学園の寄附行為九条一項によれば、訴外学園の理事は、福岡工業大学々長がなり、同人が同条一項二号の理事を選任し、これらの理事が順次同項三号以下の理事を選任してゆくことになつているので、福岡工業大学々長が理事たりうる資格を失つたときは、訴外学園においては理事を選任しえない状態になり、ひいて訴外学園においては理事が存在しないことになるものであることは明らかである。そして、訴外学園が昭和四三年七月二日破産宣告を受けたことにより、当時の理事金員がその地位を失つたものというべきであるが、仮に控訴人玉市が右破産宣告によつては理事たる地位を失わず、あるいはその後理事たる地位を回復したものとしても、控訴人玉市は昭和四四年五月六日破産宣告を受けたのであるから、これにより同控訴人は訴外学園の理事たりうる資格を失つたものというべきであり、従つて、右寄附行為九条一項によつて選任された他の理事も、その選任の基礎を欠き、選任は無効であることは明らかである(民法施行法二七条は剥奪公権者および停止公権者は法人の理事となることをえない旨規定するが、破産者がこれにあたることは明らかであり、この規定は強行規定たる性質を有するので、学校法人の寄附行為によつてこれを排除することができないものである。従つて、訴外学園の寄附行為九条一項の規定によつても、学長が破産者である場合には、その学長は理事たる資格を有しないものといわざるをえない。)。また、控訴人玉市が訴外学園の破産により学長の地位を失わないとしても、その理事たる資格を有しないことも前記により明らかである。

以上に説示したところによつて、控訴代理人が当審でした前記二ないし五の主張の理由のないことは明らかである。従つて、この主張は採用できない。

四訴外学園がその名称を昭和四八年九月二〇日学校法人福岡工業大学と変更し、同年一〇月四日その旨の登記を経たことは、被控訴人の明らかに争わないところである。

五そうすれば、控訴人らの本訴請求を棄却した原判決は相当で、控訴人らの控訴は理由がないから、これを棄却すべきである。そこで、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条、九三条を適用し、主文のとおり判決する。

(満田文彦 鈴木重信 小田原満知子)

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